大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第一小法廷 昭和54年(オ)1398号 判決 1983年1月20日

上告人兼亡海村暢訴訟承継人

海村富子

上告人

海村公治

上告人

廣兼敦子

右三名訴訟代理人

廣兼文夫

福永綽夫

被上告人

久保田昇

被上告人

中本勝

被上告人

築地清二

右三名訴訟代理人

椎木緑司

平見和明

椎木タカ

主文

原判決を破棄する。

本件を広島高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人廣兼文夫、同福永綽夫の上告理由第二点について

建物所有を目的とする借地契約の更新拒絶につき借地法四条一項所定の正当の事由があるかどうかを判断するにあたつては、土地所有者側の事情と借地人側の事情を比較考量してこれを決すべきものであるが(最高裁昭和三四年(オ)第五〇二号同三七年六月六日大法廷判決・民集一六巻七号一二六五頁)、右判断に際し、借地人側の事情として借地上にある建物賃借人の事情をも斟酌することの許されることがあるのは、借地契約が当初から建物賃借人の存在を容認したものであるとか又は実質上建物賃借人を借地人と同一視することができるなどの特段の事情の存する場合であり、そのような事情の存しない場合には、借地人側の事情として建物賃借人の事情を斟酌することは許されないものと解するのが相当である(最高裁昭和五二年(オ)第三三六号同五六年六月一六日第三小法廷判決・裁判集民事一三三号四七頁参照)。しかるに、原審は、上告人らがした本件借地契約の更新拒絶につき正当の事由があるかどうかを判断するにあたり、本件土地の共有者の一人である上告人海村富子と借地人である被上告人久保田昇の土地建物の所有関係及び営業の種類、内容のほか、右被上告人久保田から本件土地上の建物を賃借している被上告人中本勝、同築地清二の営業の種類、内容などを確定したうえ、上告人側の本件土地の必要性は肯定できるとしながら、他方、借地人側の事情として、なんら前記特段の事情の存在に触れることなく、漫然と本件土地上の建物賃借人の事情をも考慮すべきものとし、これを含めて借地人側の事情にも軽視することができないものがあり、前記更新拒絶につき正当の事由が備わったものとは認められないと判断しているのであつて、右判断には、前述したところに照らし、借地法四条一項の解釈適用を誤り、ひいて審理不尽、理由不備の違法があるといわなければならず、右違法が原判決中第一次請求を棄却した部分に影響を及ぼし、更には第二次請求の当否につき判断した部分にも影響を及ぼすことは明らかである。論旨は理由があり、原判決は、その余の論旨につき判断を加えるまでもなく、破棄を免れない。そして、本件については、更に審理を尽くさせる必要があるから、これを原審に差し戻すのが相当である。

よつて、その余の論旨に対する判断を省略し、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(谷口正孝 団藤重光 藤﨑萬里 中村治朗 和田誠一)

上告代理人廣兼文夫、同福永綽夫の上告理由

第一点 <省略>

第二点 原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違背がある。

(一) すなわち、原判決は「控訴人側の二土地の必要性は肯定できるが、借地上建物の賃借人を含めた借地人側の事情にも軽視できないものがあり、本件更新拒絶につき正当事由が備つたものと認めるに足りない。」と判示し、借地上建物の賃借人の事情をも考慮するものである。

この種の事件の先例である昭和三七年六月六日最高裁判決(最民一六、七、一二六五)によれば「地主が更新拒絶をするための正当事由を判断するためには、地主及び借地人双方の事情を参酌しなければならない。」との判断に反して、借地上建物の賃借人の事情をも考慮したものであつて、右判例と相反する判断をなしている。

(二) 次に原判決は「本件借地契約につき、借地人が地上建物を賃貸することを制限する特約があつたこと、被控訴人久保田が被控訴人中本らに右地上建物の一部を賃貸したことは……右特約に違反したことになる。」と判示しているのであつて、地上建物の賃借人の事情を考慮するのであれば、右特約に違反して借地上建物の賃貸借されたことをも正当事由の有無の判断につき考慮さるべきである。

(三) 上告人らは、本件係争地を自ら使用することを必要としたために、本訴係属中の昭和五〇年一〇月に至つて立退料一、五〇〇万円程度又は裁判所の定める額の支払を以て正当事由を補完する意向を示したのに、原審は「既に時期を失したもの」と判断するが、昭和四二年一〇月二四日最高裁判決(判例タイムズ二一四号一四八頁)は「たとえ賃貸人の解約申入当時正当事由がなくとも、賃貸人がその後引続き明渡を請求するうち事情が変つたため、正当事由があることゝなり……」とする判断と相反する判断をなしている。

(四) 借地法四条に於る正当事由の存在を判断するに当つては、土地所有者及び借地人側の土地使用の必要性等双方の事情を比較考量して考察すべきことは当然であるが、更に借地権が設定されるに至つた経緯、借地関係の存続中における経済的関係及び信頼関係の実情、借地関係を消滅させ又は存続させるために当事者がとつた措置等諸般の事情を考慮させるべきで、上告人らが立退料として金一、五〇〇万円又は裁判所の定める額を支払う旨の意思表示をなし、被上告人の蒙る損害について金銭による補償をする限りにおいて、正当事由があると認められるべきである。

第三点 <省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例